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最高裁判所第三小法廷 昭和49年(オ)975号 判決

主文

理由

上告代理人吉田朝彦の上告理由第一点について。

被上告人は本件地代増額請求後に上告人から従前の地代額ないしその二割増の地代額を増額地代の確定額として受領することを拒む意思であつたことが明らかであるが、一方、被上告人は借地法一二条二項所定の借主において相当と認める地代額の受領をも拒む意思ではなかつた旨の原審の事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らして首肯することができ、右事実関係のもとにおいては、上告人が同条項に基づき弁済の提供をしない限り、賃料債務不履行の責を免れないとする原審の判断は、正当として是認することができる。所論引用の判例は、いずれも事案を異にし、本件に適切でない。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、原審の認定にそわない事実に基づいて原判決を論難するに帰し、採用することができない。

同第二点について。

原審の適法に確定した事実関係のもとにおいては、被上告人の代理人森本常信が昭和四四年暮頃から同四五年三月頃にかけて上告人との間で再三本件土地の地代増額の協議と併せて本件土地の売買に関する交渉を重ねるとともに、右森本が上告人に対し一応昭和四四年一〇月一日以降の従前の金額による延滞地代の支払を催告したというのであるから、右の事実をもつて被上告人は上告人に対し右延滞地代の取立をしたものと認めるに足り、また、被上告人が昭和四五年八月二九日到達の書面をもつてした一週間以内に同四四年一〇月一日以降の増額地代を支払うべき旨の催告及びその支払のないことを条件に本件土地賃貸借契約を解除する旨の意思表示に対して、上告人は少くとも弁済を準備したことを通知してその受領を催告する信義則上の義務を有するものと解するのが、相当である。したがつて、これと結論を同じくする原審の判断は、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。

同第三点について。

原判決が所論の上告人の予備的主張に対する判断を示していることは、判文上明らかである。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。

(裁判長裁判官 坂本吉勝 裁判官 関根小郷 裁判官 天野武一 裁判官 江里口清雄 裁判官 高辻正己)

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